こーはならなかったですね……人道支援。こーいえば、なんでも通ると思ってんだろうか。黒男が、最初のメッセージで、「AB、おまえは、われわれの女と子供を殺した。」という意味のことを言っていた。これは空爆のことをいっている。そういう空爆をする「有志連合」に、日本は参加した。ABくんは日本国民とイコールですから、日本人全員が、彼らの「女と子供」を殺戮したということで、その「残虐性」に対しては、「残虐性」をもって報復する。これは、とりあえず、きわめて「まともな」感覚だと思います。
真理は、曲げられる。真理を曲げるのは、安全圏にいて、日々の生活を、自分と家族の幸せしか考えずに「のほほん」とおくっている……その感覚の鈍磨なのかもしれません。自分や家族の幸せが、いったいなんによって成り立っているのか……後藤さんの取材は、その根拠を教えてくれるものでしたが、われわれはそれを、本や講演や映像などで、「安全圏」で受け取る。しかし、黒男のメッセージは、そういう「安全圏で受け取ること」自体に根底的な疑問符をつきつける。これもまた「まこと」ではないだろうか……
湯川さんが、「民間軍事会社」というヘンなものをつくってまで、「かの地」に行こうとした感覚……それは、けっきょく、この「まこと」を、自身の身で確かめたかったのではないだろうか……後藤さんの取材もまた、この「まこと」を伝えるものだったけれど、それは光の側。これに対して、湯川さんの心は闇の側にあるようにみえても、結局両者は、ふたつながらこの「まこと」をみずから知りたいという心情では共通していたのではないだろうか……そう考えるとき、はじめて、後藤さんが湯川さんを追っていった心が理解できる。
人道支援(人道援助)……金さえ出せばいいというのだろうか。ABくんの心は、最初のカイロ演説でもうみえみえ。ものごとを、その深みまでちゃんと考えられない単純な人物……その、稚気に満ちた言動が、日本人全体を表わすものとなった。日本中に原発を設置して、国民全員を人質にしている今のABくんの姿こそ、もっともおそろしいテロリストではないだろうか……黒男のナイフは、二人を殺すだけだけれど、原発は日本人全員を殺す。それだけではなく、世界中に放射能をふりまいて、地球そのものを生命の住めない星にできる。
沖縄にだけ、原発がない……沖縄には米軍基地があるからだろうか……そういうクダラナイ推測はしたくないのですが……アメリカは、世界中に「高度な人類のくらし」をバラまくけれど、それはまた闇をも育てる……闇……といっていいのだろうか。それを「闇」とみてしまうわれわれの心こそがモンダイなのかもしれない。人類が「地球の意志」であるとするならば、今、世界中に起こっていることは、全体でバランスがとれて、全体で「まこと」となるはず。それを考えなければ……そう、思います。
地球は、なにを考え、どこへ向かっていこうとしているのか……19世紀に確立された「スタンダード」を、今、大きな力がゆさぶっている。正しいのはおまえらだけじゃないぞー、そこから降りて、われわれと一緒に歩めー……黒男はイギリス人だといいます。彼は、なにをどう考えて、ああなったんだろうか……彼は、彼の中では「正義」を行っているという感覚があるのでしょう。ABくんはどうなんだろうか? 彼は、彼の中で「正義」を行っているという感覚があるんだろうか……どっちもどっちで、限られた個体の中ではわからない。
おそらく、これからのことは、常に「トータル」で見ていかないと、「本当のこと」はわからないのだと思います。今、この地球に生きるわたしたち……日々の生活が、それが、なんによって支えられているのか……思想は、生活によって支えられる。生活を忘れて「思想」だけが浮きあがったとき、それはたちまち内容のない空疎なニセモノになってしまいます。生活の基部にいたるまでずーっと根がつながった「思想」って……地球という生命体は、人類に、そういうものを求めているのでしょうか……いろいろ考えさせられました。