俳句をつくりました／I made a Haiku.

去年の秋、柿をもらって、はじめて干柿というものをつくりました。
この干柿、買うとけっこう高いんですよね。おいしいけど……

渋柿を干しておくと甘くなる……神秘です。ホントにそうかな……と思ってましたが、ホントにそうでした。ちゃんとできて、お正月に家族でおいしくいただきました。ごちそうさま……

10月頃だったかな……村の人からもらった柿を、うちの奥さんが、ネットで調べながら物干竿に吊るした。最初のうちはまったく柿だったんですが（アタリマエだけど）、しらんうちに縮んで黒くなってきた。なんか、揉むといいよという話をきいて、もみもみしました。するとますます縮んで……

最終的にはちゃんと干柿になりました。スゴイ……で、暮れも迫ったころに、洗濯物を干そうとして物干竿に掛けてたら、目の端に、なにかものすごく黒いものが……わっとおどろいてみたら、そこには闇が……

おおげさじゃなくてそんな感じでした。干柿なんですが、闇なのだ……まるでブラックホールみたい……晩秋、いや、もう冬の弱い日射しを、まだ、これでもか……とぐんぐん吸いこんで、より闇を深くする……スゴイ……

見ました。干柿の肌を。よく。……やっぱりこれは、ブラックホールだ……光もなにも、全部吸いこんで、いっさい外に出さない……星が爆縮してブラックホールになる話はよくききますが、まさにそんな感じです。

rg＝２GM／c2

天体の質料をM、光の速度をc、万有引力定数をGとすると、そのシュヴァルツシルト半径rgは上の式で表わされるそうです。ちなみに、打ち方がわからないのでc2になってますが、分母は光速度の二乗です。

シュヴァルツシルト半径というのは、光がそこから抜け出せなくなる半径、つまりブラックホールの半径で、これを発見したドイツの天文学者、カール・シュヴァルツシルトさんの名にちなんで付けられました。

しかしまあ……名は体を表わすといいますが、この方の場合はまさにそれで……
シュヴァルツ（schwarz）→　黒い
シルト（schild）→　楯
なので、日本語でいうなら「黒楯さん」となるでしょうか……

黒い楯……まさに、「ブラックホール」そのものではないか……黒い楯で覆われて、光さえそこから出ることができない……これ、できすぎです……

彼は、1873年にドイツのフランクフルトで、ユダヤ系ドイツ人の子として生まれた。16才で最初の論文を発表し、神童と呼ばれたそうです。しかし、第一次大戦に従軍して発病、1916年にお亡くなりに……彼の発表したシュヴァルツシルト解は、アインシュタインの相対性理論の特殊解として得られるものだそうで、彼は、従軍中にこの解のことをアインシュタインに手紙で書き送り、アインシュタインが彼にかわってアカデミーに提出したんだとか。

ブラックホールというと、なにか巨大な天体……みたいなイメージですが、上の「シュヴァルツシルト半径」は、理論的にはどんなものでもありえるそうです。たとえば、地球の「シュヴァルツシルト半径」は、計算すると 9mm になるんだとか……すると、もしかして干柿にも……

このシュヴァルツシルト半径、あるかもしれません。ということは、あの、闇の肌の干柿を食べるということは、超ミニサイズのブラックホールを食べてしまうということ？？

というか、もうこれは、自分の身体もブラックホールなのかもしれない……えらいことになった……

ということで一句。

身の丈も
ブラックホールの年始め

なんのことやらわかりません……

今日のkooga：水象／AQUASCAPE_地蔵池

昔住んでいた名古屋の守山には、ため池がたくさんありました。江戸時代後期から明治、大正にかけて掘られたものが多いように思いますが……この地蔵池もその一つ。掘られた頃は、もう少し開けた感じのところだったと思うのですが、今は、けっこう深い森に囲まれて、ちょっと神秘的な感じさえ漂うふしぎな場所になっています。仕事に疲れたときなど、よく散策にいきました。

ウォークマン（古い……）で、バッハのコラール（BWV639）を聴きながら水面を眺めていると、しずかにしずかに引きこまれていくような……そういえば、この池には、水面に小さなお地蔵さんが立ってるんですが、聞いた話では、昔、女の子が溺れて、それで慰霊のためにお地蔵さんを作ったのだとか……今でも、岸辺には花が供えられています。その子も、この池のふしぎな力に、引きこまれてしまったんでしょうか……

この池に来ると必ず聴いたバッハのコラールは、『キリストよ、我、汝を呼ぶ』というタイトルなんですが、この曲、タルコフスキーの映画『惑星ソラリス』のテーマ曲になっていたんですね。私は、二十歳代の頃にこの映画を見て、なんてふしぎな曲だろうと思った。プログラムを見ると、バッハのコラールと書いてある。オリジナルはオルガン曲なんですが、この映画では電子音楽ヴァージョンでした。
（私が地蔵池で聴いていたのは、ウォルフガング・リュプザムという方のオルガン演奏ヴァージョン）

タルコフスキーの『ソラリス』は、これもやっぱり思いっきりふしぎな映画です。実は原作があって、スタニスラフ・レムのSF『ソラリスの陽のもとに』。私はこの原作を中学生のときに読んで、やっぱりなんてふしぎな小説なんだろう……と思いました。ソ連の科学者ケルビン博士が惑星ソラリスに行くんですが、この惑星、海が生きている。意志を持ち、千変万化のふしぎな形態を見せるんですが……

しかし、その意味はわからない。やがて、ケルビンの船室（ソラリスを回る宇宙ステーション）に、昔死んだはずの恋人ハリーが現われるようになる。ハリーはなにごともなかったかのように現われて、ケルビンと暮らしはじめます。このステーションでは「お客さん」と呼ばれていて、他の乗組員にも一人ずつ、このふしぎな「お客さん」が現われる……

私は、この小説を読んだとき、人間の心って、なんてふしぎなもんなんだろう……と思いました。人は、思い出の中に生き、ソラリスはその思い出を読んでそれを現実のかたちにする。しかし、そこにはとりたてて意志というものがない。コミュニケーションを図ろうというのでもなし、乗組員を攻撃しようというのでもない。ただ、存在。人間の存在……いや、すべてのものの存在って、そういうものなのか……

ケルビンが惑星ソラリスへ赴く前に、未来都市をドライブするシーンがあるのですが、タルコフスキーの映像では、東京の首都高C1（皇居を回る古い路線）になってました。ゆっくりした速度で環状の、地上へ出たり地下へもぐったりする首都高を巡る。私は「回遊速度」と名付けたんですが、それが、またバッハのコラールとぴったり……水面にゆれる水草、そしてソラリスのステーションで、無重力の中を漂うケルビンとハリー……そこには、bリューゲルの『雪の中の狩人』の絵……

世の中には、ふしぎなことがいっぱいです。この地蔵池の水面を見ながらバッハのBWV639コラールを聴いていると、無限に時が停まったループにはいっていくような「吸いこまれ感」におそわれる……こうなるともう、仕事なんてできない。世界が、回遊速度でゆっくりゆっくりブラックホールに吸いこまれていく……やっぱり若かったのかもしれません。もう、こんな「吸いこまれ感」を味わうこともなくなったなあ……